「山の女に」 茨木のり子さん


毎月出している「台所通信」6月は茨木のり子さんの詩を載せていただいたら

なんというご縁でしょうか?
私達とはご縁のあるWさんが昨日の夕方突然会社にいらっしゃって
茨木のり子さんとはちょっとご縁があるのよ!と言う事。
どうやら茨木のり子さんの義理の妹さんとのご縁らしく
その方が亡くなった時には白河カトリック教会で葬儀を行ったらしく
また、Wさんは弔辞を読まれたんだそうです。

私共の「台所通信」をお読みになったWさんが早速駆けつけてくださった!という次第。


その茨木のり子さんの義理の妹さんの事を読んだ詩があります。


「山の女に」

早春

生れ出て来る子供のために

ランプの下でこまごまと縫い物をする

あなたのほほは赤くほてって

からだはまるまるちふとって

まるでルノアールの描いた女のように

色彩的だ


綿羊と山羊と犬を従えて
晩秋の道を行くあなたは

どこの国の女王様よりも立派で支配的だ

連なる山脈からぐいぐい昇る太陽が

ずいとあなた達の食堂に入り込む頃

あなたの夫は地下足袋を穿いて

山林の測量や植林に出かけて行く


ここ海抜六百米の開拓地

風をよけて山腹にぽつんと建てられた

あなたたちの家はからまつややまざくらと

深い調和を保っている

オランダでは新しい家を建てると

すぐに八本の果樹を植えるそうですね

ぼくたちも・・・・・・・


あなたの夫は夢を語ってやまない

山菜を蓄え山ぶどうの酒をかもし

若い二人はあらゆるものに挑む

若さはすばらしい

まだ疲れていないことはすばらしい

とうきびがシャンデリアのように

びっしり吊るされた茶の間で

私は憶う

私の夢みる未来のくらしが

人間の始源時代の生活と

ほとんど似通っていることを


時雨の峠ですれちがうきこりは

人とみれば野太い声を投げかける

月間にうさぎが走ると飼われた犬は

ふしぎな声で吠えたてる

どんな山ひだにも谷あいにも人が居て

ひっそりと紫いろの煙をあげていることは

胸が痛くなるほど いとおしい


たちまちしぐれ たちまち晴れ

水晶のように澄志山を下って

私はまだ塵埃のまちに帰る


たくましく

美しいイメージを貰ったことを

言葉すくないあなたに謝して

ふたたび狸よりひどいやつらの

うろつく街へ!

太陽も土も青菜も知らぬ鶏が

ただ食べられるためにだけ

陸続と生産される

悪い向上のある街だ

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